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くうそうにちろく
空想日録
寺田 寅彦
「改造」1933(昭和8)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,488 字 · 21 页
を兼ねて同時にほんの少しの第二近似を行なうだけである。さて、このすえ付け作業がすむと今度は、両手を希薄な泥汁に浸したのちに、その手で回転する団塊の胴を両方から押えながら下から上へとだんだんなで上げると、今まではただの不規則な土塊であったものが、「回転的対称」という一つの統整原理の生命を吹き込まれただけで忽然として「生きて」来る。そうしてなめらかな泥汁にぬれた土の肌も見る見る生き生きとした光沢を帯びて来るのである。次には、この土塊の円筒の頂上へ握りこぶしをぐうっと押し込むと、筒の頭が開いて内にはがらんとした空洞ができ、そうしてそれが次第に内部へ広がると同時に、胴体の側面が静かにふくれ出してどうやら壺らしいものの形が展開されて行くのである。それから壺の口縁の所のやや細かい形のモデリングが始まるのであったが、そうそういつまでも見ている暇がなかったから、そこまでで残念ながら割愛して帰って来たのであった。帰りの電車に揺られながらも、この一団のきたない粘土の死塊が陶工の手にかかるとまるで生き物のように生長し発育して行く不思議な光景を幾度となく頭の中で繰り返し繰り返し思い起こしては感嘆するのであった。