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くうしゅうかのにほん

空襲下の日本

海野 十三

「日ノ出 付録 國難來る! 日本はどうなるか」1933(昭和8)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,527 字 · 30 页

青空文庫

新宿の大通りには、刻々に群衆が増して行った。皆、他区から押しよせて来た避難民たちだった。

「お婆さん、どこから来たんです」

在郷軍人が提灯の薄あかりに、風呂敷包を背負ってウロウロしている老人を見つけた。

「あたしゃ、中野から来たんですよ。甲州の山の中へ逃げようと思うんですけれど、汽車は新宿からでないと出ないというので歩いて来たんですよ。しかしこの、おっそろしい群衆では、あたしのような年寄はとても乗れませんですよ。どうしたら、ようございましょうね」

「じゃ、お婆さん。慌てて逃げても駄目だから、この駅の地下室へ入っていなさい。今に毒瓦斯でも来ると、地べたで死なねばなりませんからネ」

「毒瓦斯? ほんとうにあの毒瓦斯というのが来るのですか、ヤレヤレ」

婆さんは闇の中へ、可哀そうな姿を消した。

「君、瓦斯マスクを売っているとこ、知りませんか。教えてくれれば、五百円を今、あなたに進呈しますが」

金持らしい紳士が、在郷軍人によびかけた。

「配給品以外にはないようです。お気の毒さま」

「じゃその配給品を是非売って下さい。このとおり両手を合わせて頼みます。僕はいいのだ。しかし妻が可哀そうだ。