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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

大格闘の末、五人の者は、捉えられた。しかし肝心の贋司令官の姿は、いつの間にか見えなくなった。

「その壁が、怪しいぞ」

贋司令官は、見ているうちに、そこの壁の中に、吸いこまれてしまったのだ。コツコツと叩いてみると、それは、たしかに空虚であった。

司令部の人達が、誰も知らない脱け孔を発見するまでには、やや時間が、かかった。追跡して行ったものも、遂に得るところがなかった。

頭部に、白い繃帯を捲いた本物の別府司令官は、静かに、腰を下ろした。

「閣下」参謀長が、厳粛な表情をして云った。「どうなされましたのですかッ」

「うん、心配をさせたのう。夕方、放送局から帰り、この地下室へ到着してから、洗面所へ、手を洗いに行ったところを、やっつけられた。なっていないナ。別府にも、焼きが、まわったようじゃ」

「相手は、何者でありますか」参謀長は、畳みこむように、訊いた。

「湯河原中佐に、聞け。G・P・Uの仕業じゃということじゃ」

「なに、G・P・U!」

G・P・Uというのは、労農ロシアの警察隊のことだった。その峻辣なる直接行動と、驚歎すべき探訪組織とをもって有名な特務機関だった。日本国内に、G・P・Uが、潜入しているという噂が、前々からあったけれど、まさか警備司令部までにその魔手が伸びていようとは、何人も想像できないところだった。