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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

市川とか、桐生とか、前橋とかいう小さい町までもが、苦しい町費をさいて、一と通りは、防空演習をやっているのに、大東京という帝都が、纏った防空演習を、唯の一度もやっていなかったということは、何という遺憾、何という恥辱だったでしょう」

「貴君の云うとおりだ。もしも、帝都として防空演習を充分にやって置いたら、昨夜のような空襲をうけても、あれほどの大事にはならなかったろう。火災も、もっと少かったろう。徒に、圧し合いへし合い、郊外へ逃げ出すこともなかったろうから、人命の犠牲も、ずっと少かったろう。流言蜚語に迷わされて浅間しい行動をする人も、真逆、あれほど多くはなかったろう」

湯河原中佐と、塩原参謀は、偵察機上から、思わず悲憤の泪を流したことだった。

「浅草の上空です」浅川曹長が、伝声管から注意した。

「うん、浅川曹長。お前の家は、浅草にあると云ったな」中佐が、不図気がついて云った。

「そうであります」曹長の声は、すこし慄えを帯びていた。「雷門附近の、花川戸というところであります」

「どうだ、お前の家の辺は、見えるかね」

中佐は、胸にかけていたプリズム双眼鏡を外して、曹長の方へ、さし出した。