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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
それは、手紙の発信人「狼」という人物の、目論んだ恐ろしい計画に外ならなかった。
物音に、駭いて駈けつけた人々は、カーテンを開いてみて、二度吃驚をした。
「呀ッ、これはビール樽だ」
「なんだか、おかしいぞ。危いから、近よっちゃいけない」
人々は、ビール樽の死体を遠巻きにして、ワッワッと、騒いでいた。
「男爵が、居ないぞ」
「真弓も、どこかへ行った」
その騒ぎの中に、チリチリと、電話が懸かって来た。
「それどころじゃございません」支配人が泣かんばかりの声を出して、電話口へ訴えていた。「ビール樽が、殺されちまったんです。ええ、男爵とは、違います。ビール樽の野郎ですよ。どうか直ぐ来て下さい。私は、大将の命令がなけりゃ、店を畳みたいのですよ。どうかして下さいな、『狼』の親分!」
その頃、男爵とウェイトレス真弓とは、御成街道を自動車で走っていた。二人は、こんな会話をしていた。
「では、狼の大将は、今朝がた、イーグルへやって来たというのだな」
「そうですわ。そこへ、紅子さんという、浅草の不良モガが、一人でやって来たのよ。狼は、紅子さんと、手を取って、帰って行きましたわよ」
「紅子が、ねえ――」