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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

やや冷え冷えとする、風のない夜だった。

警報隊長の四万中尉は、兵員の間に交って、いつもは東京全市に正午の時刻を報せる大サイレンの真下に立っていた。

「中尉殿、報告」

傍らの松の木の蔭に、天幕を張り、地面に座っている一団から、飛び出して来た兵士だった。小さい鐘を横にしたような中に、細いカンテラの灯が動いている、その微かな灯影の周囲に三四人の兵士が跼っていた。よく見ると一人は真黒な函に入った器械の傍で卓上電話機のようなものを、耳と口とに、圧しあてていた。これは司令部との間を繋ぐ有線電話班の一隊に、違いなかった。

「おう」

四万中尉が、声をかけた。

「司令部より命令がありました。空襲警報用意! 終り」

「うん。鳥渡待て」中尉は、つかつかと、サイレンの開閉器のところへ歩みよって、そこに立っている兵士に訊いた。「空襲警報用意があった。準備はいいようだな」

「はッ。用意は、よいであります」

中尉は軽く肯くと云った。「よいか、ぬかるな」

「おい佐島一等兵。電話で司令部へ、報告せい。空襲警報用意よし!」

「はいッ」一等兵は身を翻して、天幕のところへ帰った。「空襲警報用意よし」