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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

燃え出した。焼夷弾が落ちたらしい。

焔に追われたような形で、最前の、マスクを被った髯男と、マスクの代りに手拭様のもので顔の下半分を隠した例の印袢纏の男とが兎のように跳ねながら、こっちへ、やってきた。

赤ン坊の泣き声がするという塵箱の傍まで来たときに、印袢纏の男は、急にガクリと、地上に膝をついた。

「く、く、苦しい。先生、ク、ク、薬を、もっと、もっと、入れて下さいィ――」

印袢纏の男は、始めの元気を何処かへ振り落していた。彼は自分の猿轡を掻きむしるように外すと、髯男の方へ、片手を伸ばした。どうやら、髯男が、持ち合わせの漂白粉と活性炭素を利用して、応急のマスクを作ってやったのが、もう利かなくなったらしい。

髯男は、マスクの硝子越しに、連れの顔を覗きこんだ。

「呀ッ、マスク! マスク!」

印袢纏の男は、何を見たのか、猛然と上半身を起こして、すぐ目の前に転っている一個の死体にとびついた。彼は、死体の顔に嵌っている防毒マスクを、力まかせに、もぎとろうとした。

髯男は、あまりの浅間しさに、唯もう、あきれ顔に立っていた。

マスクは、死体から、ポクリと外れた。マスクの下には、若い男の、苦悶にみちた死顔があった。