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ぬすむおんな
窃む女
黒島 伝治
1923(大正12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,734 字 · 18 页
」彼女は、清吉の枕頭に来て、風呂敷包を拡げて見せた。
染め絣、モスリン、銘仙絣、肩掛、手袋、などがあった。
「これ、品の羽織にしてやろうと思うて……」
と彼女は銘仙絣を取って清吉に見せた。
「うむ。」
「この縞は綿入れにしてやろうと思うて――」
「うむ。」
お里は、よく物を見てから借りて来たのであろう反物を、再び彼の枕頭に拡げて縞柄を見たり、示指と拇指で布地をたしかめたりした。彼女は、彼の助言を得てから、何れにかはっきり買うものをきめようと思っているらしかった。しかし、清吉にはどういう物がいゝのか、どういう柄が流行しているか分らなかった。彼は上向に長々とねそべって眼をつむっていた。彼女はやがて金目を空で勘定しながら、反物を風呂敷に包んだ。
「友吉にゃ、何を買うてやるんだ。」清吉は眼をつむったまゝきいた。
「コール天の足袋。」
「そうか。」と、彼はつむっていた眼を開けた。
妻は風呂敷包みを持って、寂しそうに再び出かけていた。
もっと金を持たせると元気が出るんだが……そう思いながら、彼は眼をつむった。こゝ十日ほど、急に襲って来た寒さに負けて彼は弱っていた。軽い胸の病気に伴い易い神経衰弱にもかゝっていた。