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まどにさすかげ

窓にさす影

豊島 与志雄

「小説公園」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,068 字 · 26 页

青空文庫

その二度のこと、それがいずれも咄嗟のことだっただけに、却って異様に思い出されるのだった。

初七日の日、A叔母さんはひどく早朝からやって来て、家の者をまごつかせた。叔母さんは一切頓着なく、つかつかと仏間へやって行き、数珠を手にかけて、御経をあげた。御経の中程から、私はそっとはいって行き、後ろの方に坐って、御経を聞いた。

御経がすんで、叔母さんは経文と数珠を小さな袱紗に包んで、向き直った。

「あら、美佐子さん来てたの。」

初めて私のことに気付いたようだった。私はただ曖昧な微笑を浮べた。

「いろいろ、疲れたでしょう。それにまた、今日はたいへんね。」

「でも、あたし、もう余り手伝わないことにしてるの。」

「それでいいでしょう。わたしがあなたの分も働いてあげるから。」

家事の運びから座席の取りなしなど、叔母さんがたいへん手馴れてることは、葬式の時にも私は見た。

「叔母さまは、いろいろなこと御存じね。」

「いろいろなことって、なによ。」

「御経なんかも……。」

叔母さんは微笑しただけだったが、仏壇の方をじっと見やった。

「明日、御納骨でしょう。」

「ええ、そうらしいわ。」

叔母さんはちょっと眼を据え、何やら独り頷いて、ゆっくり言った。