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まどにさすかげ
窓にさす影
豊島 与志雄
「小説公園」1952(昭和27)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,068 字 · 26 页
」
「あたし、淋しがりなんかしないわ。」
「だって、人形を壊したりして……。」
「壊れてたんですもの。」
「そんなら、捨てていらっしゃいよ。」
私は縁側から降りて、塵取を取り上げ、裏口の方へ行った。母と交わした対話が、謎のようだった。どうしてあんな対話になったのだろう。私もどうかしていたのかも知れないが、母もどうかしていたのかも知れなかった。
美しい朝日の光りに向って、私は深呼吸をした。
家の中に戻って、私は熱いお茶を飲み、それから仏間へ行った。雨戸を開けると、眼がさめるように明るくなった。仏壇はきれいに片附いていて、百合の花が匂っていた。私はその前に坐って、お燈明とお線香をあげた。祖母の遺骨が無くなってるのも、今では、却って清々しかった。私は掌を合せ、長い間頭を垂れていた。そして立ち上り、そこから出て行こうとして、ふと、母や父や兄と顔を合せるのが、ちょっと極り悪いような気がした。そんな思いは初めてだった。祖母が亡くなったからだったろうか。そればかりでなく、私がいくらかしっかりしてきたからだったろう。でも、そのことに自信はなかった。私はもう一度仏壇の前に引き返して、お線香をあげた。