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りっしゅんのたまご

立春の卵

中谷 宇吉郎

「世界」1947(昭和22)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,450 字 · 17 页

青空文庫

立春の時に卵が立つという話は、近来にない愉快な話であった。

二月六日の各新聞は、写真入りで大々的にこの新発見を報道している。もちろんこれは或る意味では全紙面を割いてもいいくらいの大事件なのである。

昔から「コロンブスの卵」という諺があるくらいで、世界的の問題であったのが、この日に解決されたわけである。というよりも、立春の時刻に卵が立つというのがもし本統ならば、地球の廻転か何かに今まで知られなかった特異の現象が隠されているのか、あるいは何か卵のもつ生命に秘められた神秘的な力によるということになるであろう。それで人類文化史上の一懸案がこれで解決されたというよりも、現代科学に挑戦する一新奇現象が、突如として原子力時代の人類の眼の前に現出してきたことになる。

ところで、事実そういう現象が実在することが立証されたのである。『朝日新聞』は、中央気象台の予報室で、新鋭な科学者たちが大勢集って、この実験をしている写真をのせている。七つの卵が滑らかな木の机の上にちゃんと立っている写真である。『毎日新聞』では、日比谷の或るビルで、タイピスト嬢が、タイプライター台の上に、十個の卵を立てている写真をのせている。