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たちがれ
立枯れ
豊島 与志雄
「改造」1933(昭和8)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页
倦まず撓まない努力は、彼にはもう縁遠いものとなっていた。組織の弛緩……そんなことを彼はまた反芻してみ、キミ子はあれからどうしたろうかと、じりじりしてくるのだった。
そういうところへ柴田研三がふいにやって来たので、中江はちぐはぐな気持で逢った。柴田とはそれが二度目の応対だったが、中江の癖として、態度には鷹揚な親しみを見せた。だが柴田の方では、へんに警戒の態度で、言葉の真意が掴めないような話し方ばかりした。
「職工たちの空気が、次第に、不穏になってくるようですから、私も心配しています。」
だが、いかにも職工長らしい大きな身体を、更に大きな洋服にくるんで、どっしりとあぐらをかいてる彼の様子には、心配らしいところは見えなかった。
「然し今のうちなら、舵の取りようで、どちらにでも動きそうです。」
どちらにでも……というのは、要するに、中江の伯父のものだったN製作所が、伯父の没落と共に人手に渡ったについて、二つの動きが職工たちの間に現れたのであって、一つは、そういう場合、旧社長から従業員に対して慰労手当が出るのが至当で、それを要求しようという運動であり、他の一つは、茲に若干の資金を集めて、それを従業員全体の負担とし、あくまで新社長に反対して、工場を従業員の手で経営しようという運動なのだった。