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たちがれ
立枯れ
豊島 与志雄
「改造」1933(昭和8)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页
」
中江は自ら不愉快になって黙っていた。柴田もやがて立上った。いずれまた、会社の方の様子をお知らせに上るから、その節はよろしくと、口先だけの調子で云って、見切りをつけたような笑いを最後に残して、帰っていった。
一体彼は何のためにやって来たのかと、中江は後で考えるのだった。或は予め何の計画もなく、ただ様子を窺い旁々、利益の蔓でもあったら臨機に掴もうと、それくらいの腹だったのかも知れない。然し、単に旧社長の甥だからというだけではなく、これには何か西田が関係ありそうな気がした。少くとも、西田が工場内部で何かやっていることだけは明かだった。ところが、そう分ってはきたものの、以前は左翼闘士としての西田にあれほど好意を持ち、伯父の会社に周旋してやるほどの危険を敢てしたにも拘らず、今は殆んど何の関心も持ち得ない自分自身を見出して、中江はへんにうらぶれた気持になってゆくのを、どうすることも出来なかった。元来彼の性格として、首尾一貫する思想なり意思なりを持続することは甚だ少く、その代り、その時々の気分に囚われて自らそれを弁義することが多く、そのために、見たところでは、如何にも意志的で自信強そうに思わるるのだったが、そうした自己弁義のための反省は、彼を推進させる力とはならずに、現在の気分に沈湎させる用をしかなさなかった。