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たちがれ

立枯れ

豊島 与志雄

「改造」1933(昭和8)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页

青空文庫

気恥しい打撃だった。キミ子は嘗てそんなことは色にも現わさないで、中江がこういう土地の酒を飲むことを、中江の健康のために心配してみせるだけだった。ばかりでなく、キミ子の生活の半ばは、実際影のなかに隠れて見えなかった。それに比べると、島村と静葉との間柄が、如何に影の少い公然たる朗かさを持っているかが、中江の眼に映じてくるのだった。

「呼ぼう、島村君を呼び出そうじゃないか。」と中江は云い出した。

「そうね。」

当り前だという調子で、静菓が自分で電話をかけに立っていった。機械的に一寸島田の髪に手をやって、引いてる裾を器用にさばいて、肥った大柄な身体をすっと襖の陰に消していくその後ろ姿を、中江はじっと見送ったが、その眼を膝に落すと、あぐらの足先にたくねたお召の着物の裾に、白いものがあった。よく見ると、そこがすり切れていて、一寸ばかり裾綿が覗きだしているのだった。それを眺めているうちに、彼は酒の酔がさめかかった。久しぶりに吉松へ一人でやって来たのも、行きつけの喜久本へはだいぶ不義理があるからのことだったが、着物の裾の破れから、そうした自分の不如意が頭にはっきり映ってきた。