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たちがれ
立枯れ
豊島 与志雄
「改造」1933(昭和8)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页
そういう意見に、中江は賛成する筈だったが、変に、島村に対しても気持がこじれて、意志の力を説き、努力の効果を説きたて、説いてるうちに、自分にもぴったりこないところから、うわずった熱っぽい気分になってゆき、それがまた感傷的な気分をもそそって、しきりに酒をのんだ。三四十分たって、静葉が他の出先から駆け戻ってきて、膝をくずして島村に寄りそいながら、袂で頸筋に風を送ってる様子を、中江は霧をへだてて見るように眺めた。そしてその霧のなかで彼は、ふみ枝としげしげ逢っていてそのままいつしかうとくなっていったことや、キミ子と今のようになったきっかけ――個人生活と社会的生活との話から、恋愛論に及んでいって、ひょいと彼女を抱擁してしまった、偶然のいきさつなどを、遠い昔のことのように思い浮べ、社会問題に強い関心をもって、何かしら為すべきことを沢山夢想していた昔の生活から、現在の自分がぽつりと置き忘れられてるような寂寥を感じ、それに反撥する力もなく、涙ぐましい気持に陥りながら、しきりに酔いを求めて、丁度溺るる者が水面に浮び出ようと※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)くように、徒らに饒舌ったり騒いだりしてみるのであった。