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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

「おいらそのルリ子って女が行くのを見たよ」

「エッ。どこで……」

「飯田町のステーションの材木置場の横を歩いていたよ。澄まアして……」

「嘘を吐けこの野郎……手前等の眼につくようなヘマをやるけえ」

「だって本当だよ……小父さん……青い帽子を冠って、白い服を着て、小ちゃな写真機を持ってたよ」

「フーン。耳朶に穴が開いてたかい?」

「耳朶なんか知らないけど……とてもとてもシャンだったよ」

「アハハハハハ」

「イヨ――。チビ公。見込みがあるぞッ」

「ワハハハハハ……」

「フフフフフフ……」

昂作はそんな笑い声を耳にしながら、静かに頭を横にして起き上りかけた。そんな笑い声の中にもまたアリアリとあの少女……瑠璃子のあどけない風付きを思い出すと、もうジッとしておられない気持ちになってしまった。一刻も早くあの少女に会って、変装を感づかれている事を知らして遣ると同時に彼自身が刑事に何もかも白状した事を、あやまってしまいたい。……そうして彼女を無事に逃がして遣りたいというような願望を、夢うつつのように抱きながら一所懸命の思いで腹ばいに起き直った。上半身を両手で支えて、ジロジロと眼を見開いてみると、自分の頭の上には誰の仕業かわからないが、湿っぽい木炭の俵が一枚、横すじかいに載せてあった。