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どうてい
童貞
夢野 久作
「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页
最前血を吐いたらしい処には、白い石灰の粉が撒き散らしてあって、エグイ、噎せっぽい刺激を含んだ匂いがプーンと鼻に迫って来た。
彼の腋の下から冷汗がポタポタと滴った。急にたまらない恥かしさを覚えて、今一度、土の上に額を押しつけた。
それからまた、何時間たったかわからなかった。どこをドウ歩きまわったのか。彼自身の記憶には一つも残っていなかった。彼女から貰った大切な銀貨さえもいつの間にか彼の掌から消え失せていた。
ただ彼は、時折り若い女の姿を見かけると、思い出したように立ち止って、ジット眼を据えた。もしや瑠璃子ではないかと思って、パラソルの中を念入りに見上げ見下した……が……稀にはソレらしく見える女がいないではなかったけれども、近づいて見ると皆違っていた。中には彼から見すえられているのに気がついて、中途からクルリと引き返して行く女もあった。そのたんびに彼は軽い失望のタメ息を洩らしつつ、またもヒョロヒョロと歩き出した。
それは彼の初恋であったかも知れなかった。
……彼の行く手のギラギラとゆらめく光りの中に、ともすれば眼の大きい、唇の小さい、ふっくらした彼女の顔が、白い歯を輝かして浮き出すのであった。