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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

臭気がするのを、吐いても吐いても吐き切れない胸のわるさであった。

それからまた、どれくらいあるいたか解らなかったが、その中に気がついてみると、彼は一つの空地に生えた草原の片隅に、大の字なりに仰向けになっていた。そうして彼の顔の上には、ペンキのように青い空が二ツ三ツ白い雲のキレを溶かし込みながらピカピカと光って蔽いかぶさっていた。

その草原の周囲は、仕事を休んでいるらしい大きなガランとした工場の背中で囲まれていて、どこに隙間があるか、彼自身がどこから入って来たのか、チョット見まわしただけでは解らなかった。太陽は今、彼が頭を向けてる大建築の表側の方にいるらしく、彼の足の向うに並んだ赤煉瓦とコンクリートの家の上の方、五分の一ばかりを、黄色く照し出していて、その下の方を冷たい紫色の日陰に彩っていた。その左手の草原の尽きる処に、青白く一直線に横たわっているのはテニスコートであろう。その向うにはポプラが二、三本、建物の日陰を突き抜けて、何となく郊外に近い気持ちを青々とした梢にそよがせつつ、西日の中に輝き並んでいる。

彼の鼻の先には、震災の名残りらしい、赤煉瓦とコンクリートの破片がゴロゴロと積み上げられていた。