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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

彼はそのような物音のシンフォニーに聞き入った。何も考えないままにその方に惹きつけられて行った。

あとからあとから起る新しい雑音の旋律……遠く近くから風のように……水のようにさまよい起る大東京のどよめき……その中に彼は、彼が作曲したいずれの楽譜よりも新しい、底強い魅力を発見した。構成派でもなければ写実派でもない……大地と大空とが直接に奏でる「人類文化」の噪音交響楽……徹底した真剣な音楽をシミジミと大地に横たわって聞く……そこに彼は、無限の新しい技巧を感得した。

彼はかつての日、深く自信もし、愛惜していた自分の天才が、如何に小さく安っぽいものであるかをこの時初めて悟ったのであった。そうして言い知れぬ感激のために腸の底まで強直してしまったのであった……眼は向う側の高いスレート屋根を這い昇って行く朱色の日ざしを凝視しながら……心はこの大地のオーケストラ……二度と繰り返されないであろう微妙な非音階音が縺れ合い、重なり合いつつ奏でて行く「大都会の夕暮」の哀調に恍惚として、今までにない慰安と幸福とを感じた。……「にんげんの音楽は皆似せものであった。……自分の音楽も似せものであった。