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どうてい
童貞
夢野 久作
「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页
あんな無邪気な愛くるしい少女が、こうして、警察に追い廻されているという事が、たまらなく残酷な、恐しい事のように思われて来たのであった。そうしてあの少女が白い服のまま手錠をはめられて、警官に突き飛ばされている姿をマザマザと眼の前に幻視しながら、彼はもう少しで……「貴方がたは人違いをしてるのじゃないですか」……と口走るところであったが、しかし、その言葉は、すぐに咽喉の奥へ嚥み込まれてしまった。次から次へと通り抜ける電車の轟きや、自動車のサイレンに全神経を脅かされる上に、薄いホコリが絶え間なく群集の足の下をくぐって彼の顔に迫って来るので、彼は口を利くどころか、息を吐く隙さえないくらいであった。ただ、やっとの思いで、頭をすこし左右に振っただけであった。
「フーン。わからん……そうかそうか……そんならその女に金を貰うたのはどこいらか教えてくれんか……エエ……コラ……どこで貰うたんか……今、お前が左手に握っている……その金を……」
昂作は白いホコリにまみれた左手の拳をソロソロと開いて見た。ワナワナと震える細長い指の間から、汗に濡れた新しい銀貨が一個ピカピカと見えて来た。