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きょうそう

競漕

久米 正雄

「新思潮」1916(大正5)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,312 字 · 34 页

青空文庫

皆は歯噛みをなしてそれを見送った。「癪だなあ! 畜生」と誰れかが怒鳴った。久野は皆の前で、「済まない、済まない」と陳謝した。しかし皆の心の中では誰れもこれを「敗ける前兆じゃあるまいか」と考えて黙り込んでしまった。

その午後親しい同志の法科の艇から競漕を申し込まれた時、皆が一種の奮励の気味で応戦し、三分間の力漕をして、半艇身ほど法科を抜いたという快い事実がなかったら、この午前中の坐礁事件は永久に厭な記憶となって、競漕の時まで留まったかも知れない。しかしこの例年勝負にならないほど力量がある法科と、たとえ一時の練習にもせよ勝ったということは、選手を初めて勝利の確信にまで導いた。

「口惜しい奴らだなあ」と競漕の練習が済んで二つの艇を並べて休んだ時、法科の二番を漕いでいる小野がこっちを向いて言った。

「どうだ。こんなもんだぞ」窪田が威張って見せた。

「おめえたちの艇は水雷艇だな。ひょろひょろしてるくせに速い」と法科の艇舳を漕いでいる、何でも瑣末なことを心得ているので巡査と渾名のある茨木が言った。

皆はかなり好い気持であった。そしていつもよりは活気づいて艇庫に船を蔵めた。