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きょうそう
競漕
久米 正雄
「新思潮」1916(大正5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,312 字 · 34 页
どうか頼むから出てくれ給え」
「僕だって脚本を書いてるんで忙しいんだ。帝文の川田敏郎に今月は是非出すって約束してしまったんだからね」
「なあに、君のは一生の大事と言うほどのことではあるまいじゃないか」
「ところが今の僕にとっちゃ少くとも妻君を貰うより大問題だからね」と久野は黙って笑っている津島の方へ顔を向けた。ちょっと面を赤めた津島はこの時初めて口を切った。
「そんなことを言わないで、どうか出て下さい。窪田君もこの通り困り抜いてるんですから。メンバアが揃わなくちゃ他の人も練習に身が入らないんです。それに何でしょう。競漕なんてものは一度はやって見ると面白いものですよ。合宿生活なんぞも学生のうちでなければ、到底味わうことが出来ない経験ですからね。あなただってやって決して損なことはありません。きっと請け合います」
「そうだ」窪田もそれに力を得て口を添えた。「創作でもするっていう人ならなおさらのことだよ。たまにはこういう団体生活もして見るさ。合宿生活なんてものは、全く単純で原始的で面白いものだよ。ある種の獣的な生活だがね。是非一度はやって見る必要があるよ」
「それあ僕だって好奇心の動かぬことはない」