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けいば

競馬

織田 作之助

「改造 第二十七巻第四号」改造社、1946(昭和21)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,134 字 · 24 页

青空文庫

蒲団の裾を枕にすると、もう前後不覚だった。二時間ばかり経って、うっとりと眼をあけた女中は、眠っていた間何をされたかさすがに悟ったらしかったが、寺田を責める風もなく、私夢を見てたのかしらと言いながら起ち上ると、裾をかき合せて出て行った。寺田はその後姿を見送る元気もなく、自責の想いにしょげかえっていたが、しかしふとあの男のことを想うと、わずかに自尊心の満足はあった。

翌日、小倉競馬場の初日が開かれた。朝からスリ続けていた寺田は、スレばスルほど昂奮して行った。最後の古呼特ハン競走で、寺田はあり金全部を1のハマザクラ号に賭けた。これを外してしまえば、もう帰りの旅費もない。

ぱっと発馬機がはね上った。途端に寺田は真蒼になった。内枠のハマザクラ号は二馬身出遅れたのだ。駄目だと寺田はくわえていた煙草を投げ捨てると、スタンドを降りて、ゴール前の柵の方へ寄って行った。もう柵により掛らねば立っておれないくらい、がっくりと力が抜けていたのだ。向う正面の坂を、一頭だけ取り残されたように登って行く白地に紫の波型入りのハマザクラを見ると、寺田の表情はますます歪んで行った。出遅れた距離を詰めようともせず、馬群から離れて随いて行くのは、もう勝負を投げてしまったのだろうか。