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わらうおしおんな

笑う唖女

夢野 久作

「文芸」1935(昭和10)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,719 字 · 31 页

青空文庫

「キキキ……ケエケエケエ……キキキキッ」

形容の出来ない奇妙な声が、突然に聞こえて来たので、座敷中皆シンとなった。

それはこの上もない芽出度い座敷であった。

甘川家の奥座敷。十畳と十二畳続きの広間に紋付袴の大勢のお客が、酒を飲んでワイワイ云っていた。奇妙な謡曲を謡う者、流行節を唄い唄い座ったまま躍り出しているもの……不安とか、不吉とかいう影のミジンも映していない、醇朴そのもののような田舎の人々の集まりであった。それが皆、突然にシンとしてしまったのであった。

「……何じゃったろかい。今の声は……」

「ケダモノじゃろか」

「鳥じゃろか」

「猿と人間と合の子のような……」

「……春先に鵙は啼かん筈じゃが……」

皆、その声の方向に顔を向けて耳を澄ました。二間の床の間に探幽の神農様と、松と竹の三幅対。その前に新郎の当主甘川澄夫と、新婦の初枝。その右の下手に新郎の親代りの村長夫婦。その向い側には嫁女の実父で、骨董品然と痩せこけた山羊鬚の頓野羊伯と、その後妻の肥った老人。仲人役の郡医師会長、栗野医学博士夫妻は、流石にスッキリしたフロックコートに丸髷紋服で、西日の一パイに当った縁側の障子の前に坐っていた。