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わらうおしおんな
笑う唖女
夢野 久作
「文芸」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,719 字 · 31 页
アハハ……なあ花坊。祝い芽出度の若松様よ……トナ……さあ。花ちゃん。この手を離しなさい。柔順しうこの帯を離しなさい。この若先生が診てやると仰言るけに……」
双肌脱の伝六郎が、音に聞こえた強力で、お花の腕をぎ離そうとする度に、帯際を掴まれている澄夫は式台の上でヨロヨロとよろめいた。
「コレコレ。離せと云うたら。恐ろしい力じゃ。コレコレここ、離しおれと云うたら……云うたて聞こえんけに往生するのう。袴の紐が切れるてや。ええ若先生。この袴と帯を解かっしゃれ。アトは私が引受けますけに……」
今にも気絶しそうに生汗を滴らしながら唖女の瞳を一心に凝視していた澄夫は、この時やっと気を取直したらしく、伝六郎の顔を見て真赤になった。暗涙を浮かめた瞳で背後の栗野博士を振返ると、すこしばかり頭を下げた。やっとの思いで唇をわななかした。
「誠に……恐れ入りますが、モルフィンを少しばかり、お願い出来ますまいか……一プロ……ぐらいで結構ですが……」
「オット。モルヒネなら失礼ながら私が作りましょう。長らくこの病院の留守番をさせられて、案内を知っておりまするので……」
栗野博士の背後から頓野老人が山羊鬚を突出した。