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わらうおしおんな
笑う唖女
夢野 久作
「文芸」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,719 字 · 31 页
な。ハハハ……」
「……ハイ……」
「私たちもアトから離座敷へチョット行きますけに、お二人で茶でも飲んで待っておんなさい。今一つ式がありますでな」
「……ハ……ハイ……」
新郎新婦は狭い、暗い処で折重なるようにお辞儀をした。そのままに立って見送っていた。
玄関の夕暗の中をズウーッと遠くの門前の国道まで白砂を撒いて掃き清めてある。その左右の青々とした、新しい四目垣の内外には邸内一面の巴旦杏と白桃と、梨の花が、雪のように散りこぼれている。その玄関に打ち違えた国旗と青年会旗の下に、男とも女とも附かぬ奇妙な恰好の人間が、両手を支いて土下座している。
頭は蓬々と渦巻き縮れて、火を付けたら燃え上りそうである。白木綿に朱印をベタベタと捺した巡礼の笈摺を素肌に引っかけて、腰から下に色々ボロ布片を継合わせた垢黒い、大きな風呂敷様のものを腰巻のように捲付けている恰好を見ると、どうやら若い女らしい。全体に赤黒く日に焼けてはいるが肌目の細かい、丸々とした肉付の両頬から首筋へかけて、お白粉のつもりであろう灰色の泥をコテコテと塗付けている中から、切目の長い眦と、赤い唇と、白い歯を光らして、無邪気に笑っている恰好はグロテスクこの上もない。