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ふでにもくちにもつくす

筆にも口にもつくす

北大路 魯山人

「独歩」1953(昭和28)年

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,348 字 · 5 页

青空文庫

新婚早々の夫婦なら、恋女房の炊いたごはんが、シンだらけでも嬉しいだろう。恋女房のつくったビフテキが、たとえわらじのようでも、ありがたいだろう。

だが、新婚夫婦はいささかのぼせあがっている。真心とか、親切とかいうものは、のぼせあがったものではない。もっと冷静でなくてはいかん。ほんとうの真心があって、しかもその真心が形にあらわれたとき、はじめて真心は見えるのだ、思っているだけではダメだ。思っていても見えぬ。それをあらわさねばならぬ。見せねばならぬ。筆にも、口にも、つくされ申さず候――というのは逃げ口上だ。筆にも、口にも、つくさねばならぬ。いくら思っていても、腹はふくれぬ。思っていることを、どんどん表現することができねばならぬ。真心があればできるはずだ。いや、やらねばいられなくなるはずだ。それは方法だ、工夫だ」

「分りました。たとえば、どんなことでしょうか」

「いよいよ、君の聞きたいところへ追い込んできたね、ハハハ」

「早く聞きたいものですわ」

「では、話そう。日本には今から少し前にお女郎というものがいた」

「先生、お女郎の話じゃありません。料理の話です」

「待て、待て、ここからいわねば分らん。