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ふでにもくちにもつくす

筆にも口にもつくす

北大路 魯山人

「独歩」1953(昭和28)年

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,348 字 · 5 页

青空文庫

お女郎はたいへん上手だ、なにが上手か分るか」

「分ります。それが料理とどんな関係があるでしょうか」

「たとえば……だ。そう、いやな顔をせずに聞きなさい。女房は下手だが、お女郎は上手だ。客の喜ぶところを知っておる、だが、これは形だけのものである場合が多い。つまり、商売人だ。料理屋の料理もそうだ、客の好むところを知っておる。そのかわりあとで、金をとられる。女房に枕代や料理代を払うやつはない。だからといって女房たるもの、ゆるんではならぬ。長年の間に、たいせつな真心さえも忘れてしまうものがある。だから、主人は料理屋にばかり行き、よそに女をこしらえる。

真心があれば、そこにテクニックというものが必要だ。テクニックを重要視してはならぬ。さりとて、これを軽蔑することはいかぬ。別にお女郎のマネをしろとはいわぬが、真心があれば、部屋に花を生けるのも一つのあらわれだ。媚態をせよとはいわぬが、好きなひとの前では、おのずから媚態をなし、声もやさしくなるものだ。料理においても、吸いもの一つ作っても、真心さえあれば水くさくともいいというものではない。味をよく、そこにひとさじの調味料を使うということは、よりおいしく食べさせようという真心のあらわれだ」