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つきじがし

築地河岸

宮本 百合子

「新女苑」1937(昭和12)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,825 字 · 16 页

青空文庫

「ええ」

「じゃあ今度こそよく見とこう」

千鶴子はくすくす笑っている。

その狭い事務室には内外の専門雑誌とカタログとが、各部門別のインデックスで整理、陳列されていた。会議室は、もう一階上の四階を賃借りしてつかうのだけれど、準備の間はもとより集会の間にも道子は幾度かそこを上から下へと往復しなければならないのであった。大テーブルのぐるりに三十人近い頭数だけ、雑誌の最新号と議題を刷ったものと維持員名簿をもふくめた参考資料をキチンと並べ終って道子が、

「大体よさそうね」

その辺を見廻している時、ドアを開ける拍子にノックする内輪のものらしさで、

「やあ」

入って来たのは、ぬいだ上着を手にもち、カンカン帽をもう一方の手にもっている太った豊岡であった。

「ひどい暑気ですなあ、フー、そとはやり切れたもんじゃない」カンカン帽で風を入れながら、

「ここも扇風機がたった一つじゃ無理だね、お偉がただけふかれて、こっちまでは当らん」

さっさと上座の方へ行って白塗の扇風機のスウィッチを入れた。それと一緒にテーブルの上へ並べた書類が飛びそうになった。千鶴子が、

「あら!」

それを押えながら、やっと今まで呑みこんで辛棒していた笑いを爆発させる公然の機会とでもいう風に肩をよじって笑い出した。