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かんざしをさしたへび

簪を挿した蛇

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」1946(昭和21)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,681 字 · 20 页

青空文庫

しかしそれは全くの誤解であって、科学精神を涵養したり、幼いうちからものごとを科学的に考察する癖をつけたりすることが、もし出来るならば、それに越したことはない。しかし私にはそれだけで科学教育の問題が全部解決したとは言えないような気がするだけである。

科学の本質論には此処では触れないことにしても、本統の科学というものは、自然に対する純真な驚異の念から出発すべきものである。不思議を解決するばかりが科学ではなく、平凡な世界の中に不思議を感ずることも科学の重要な要素であろう。不思議を解決する方は、指導の方法も考えられるし、現在科学教育として採り上げられているいろいろな案は、結局この方に属するものが多いようである。ところが不思議を感じさせる方は、なかなかむつかしい。

物象の何年生だったかの教師用に、秋の山へ児童をつれて行くと、楓だの漆だのが美しく紅葉している、その葉の色の美しさを示して、自然界の美に驚嘆するように児童の情操を涵養せよというような意味の説明がある。しかし本統の驚異はなかなかそう手軽には感じさせられないものである。それに注文通りの秋の山など、そうざらに見付かるものでもない。