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かんざしをさしたへび
簪を挿した蛇
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1946(昭和21)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,681 字 · 20 页
本統に何物もない虚空に、眼に見えない力の渦巻があって、その廻る速さがだんだん速くなって行く。するとその中心のあたりからほの白く瓦斯状の物質が生まれて来る。そういう夢と老人の読経の声とがもつれ合って、いつの間にか、生まれたばかりの星雲の姿が、ぼんやりと眼に見えて来るのであった。
今の科学精神などという流儀から言えば、とんでもない教育を受けたものである。生活の中に科学をとり入れるようなことも、全く縁のない話であった。そして学校では実物を完全に離れた文字だけの理科を教り、家へ帰っては『三国志』と『西遊記』とに凝っていた。たまさか新しい科学の知識を授けられれば、それは「断片的な科学知識」と「出来上った理論の外面」だけであった。それらは『西遊記』と仏説寓話とで養われた荒唐な少年の日の夢に、益々非科学の拍車をかけるような結果に陥ってしまった。科学者にでもなろうというのだったら、典型的な悪い教育を受けたものである。
ところがこの頃になって考えてみると、こういう少年の日の反科学的な教育が、自分のその後の科学にとって、そうひどく邪魔になったとは思われない。そういう天邪鬼な考えをするから何時まで経っても一人前の科学者になれないのだと言われれば、それまでの話である。