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こめとまずしさ
米と貧しさ
山本 周五郎
「朝日新聞」1961(昭和36)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,084 字 · 5 页
私の幼年時代に、高島米峰という人がいて、「タクアンと茶づけめしばかり食べていると日本は亡びてしまう」といい、すさまじい反論の包囲攻撃を受けた、ということを伝聞した。これは正確な話ではないかもしれないが、私はその趣旨には同意したいと思う。米を主食にする民族を考えてみると、あまり文化水準の高くないことがわかる。どの国と指定するまでもなく、ひいきめにみても創造的能力に恵まれた民族は思い当たらないようである。
むろん「米」の責任ではない。欧米諸国でも米は(ほぼ野菜として)食べているようだ。問題はそれを農業の基本とし、主食としてたらふく食べる、という点にあると思われる。――いかにも米のめしはうまい、塩むすびにしただけでも飽きずに食べられるし、満腹することができる。けれども頭脳活動は停滞するようだ。若いころ先鋭な文化活動をした人たちがほぼ五十歳くらいになると、ガゼン米のめしのうまさを再確認し、湯あがりのけだるいソウ快さにめざめ、俳カイ趣味や骨トウいじりに没頭しはじめる。つまるところ「風雅」や「あそび」の類にとらわれる傾向が一般であるようだ。
人間は五十歳を越すころから、ようやく世間の表裏や社会構成のからくりや、人間感情の虚実を理解できるようになる。