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そまつなはなたば

粗末な花束

宮本 百合子

「新小説」1924(大正13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,227 字 · 13 页

青空文庫

そこは私が見てさえ、商売上得な位置とは思えなかった。車道を踰えて鋪道にかかったばかりの処だから、頻繁な交通機関をすりぬけるに幾分緊張した交通人達は、大抵一二間ゆとりない惰力的な早足で通り過た。彼等は、勿論薄暗い左手の街路樹の下に、灯もなければ物音も立てず、しんと侘しげな小露店があることさえ殆ど心付かない。蛾のように、明るさに牽きつけられた者は、前方にいそぐ。どういう拍子か私の目を止めた外国人の貧しい露店は、そんな損な処にいる上、実に小さな、飾りけないものであった。

店と云えば、僅か二尺に三尺位の長方形の台がある許りだ。白布がいやに折目正しく、きっぱりかけてある。その上に、十二三箇小さな、黄色い液体の入った硝子瓶がちらばら置かれている。白布の前から一枚ビラが下っていた。

「純良香水。一瓶三十五銭」

台の後に男が立っているのだが、赧っぽい髪と、顎骨の張った厳しい蒼白な顔つきとで、到底、買いてを待つ商人とは思えなかった。兵隊であったかと感じる程、身じろぎもせず、げんなりした風もなく突立っている。見て、寒い恐怖に近いものが感じられた。男は、峻しい冷静なその台の番人で、香水と称す瓶のなかみは、可愛い好い香など決して仕ない色つけ水でありそうな気がする。