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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

また、慈悲太郎の肩に現われた父の手も、どうやら錯覚らしく思われてきた。

というのは、白い地に、黄色い波形のものを置いて、その上を、紗のようなものでかぶせると、取り去ったとき、かえって残像が、白地のほうに現われて黒く見えるのである。

また、それには、光のずれのことなども考えられるので、あの時、指のひしゃげつぶれた、父の掌と思ったものも、蓋を割ると、案外たわいのない錯覚なのではなかったろうか。

と、フローラは、皮質をもみ脳漿を絞り尽くして、ようやく仮説を組み上げたけれども、昨夜見た父の腕だけは、どう説き解しようもないのだった。

彼女は、一夜のうちに若さを失ってしまい、罪の重荷を、ひしと身に感じた。そして何もかも紅琴に打ち明けて、彼女の裁きを受けようと決心した。

「そういうわけで奥方様、私は、基督様の御名など、口には出せぬ罪人なのでございます、横蔵様のときも、慈悲太郎様のときも――アレウート号に起こった、悪疫の因がそもそもではございますが――実は私、蝋燭の芯の中に砒石を混ぜておいたのです。そして、立ち上がる砒の蒸気で、数多の人の命を削ってまいりました。