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こうもうけいせい
紅毛傾城
小栗 虫太郎
「新青年」1935(昭和10)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页
「まいりますとも、まいりますとも……。奥方さまのおいでになるところなり、どこへなりとお供いたしますわ。そして、私は父の亡霊を見にいくのでございます。それは、ほんとうの父ではございません――父の幽霊でございましょう」
それから、十数日の間というのは、まるで無限に引かれた灰色の幕の中を進んでいくようであった。
時として、低い雲が土手のように並んでいると、それが島影ではないかと思い、はっと心を躍らせるのであるが、その雲はすぐ海霧に閉ざされて、海も空も、夢の中の光のようにぼんやりとしてしまうのだった。
そうして、死んだような鉛色の空の下で、流氷の間を縫い行くうちに、ある朝、層雲の間から、不思議なものが姿を現わした。
その暗灰色をした、穂槍のような突角が、ベーリング島の南端、マナチノ岬であった。
そこは、宿る木一つとない、無限の氷原だった。
その、乳を流した鏡のような世界の中では、あの二つの複雑な色彩、秘密っぽい黒貂の外套も、燃えるような緑髪も、きらびやかな太夫着の朱と黄金を、ただただ静かな哀傷としてながめられた。
しかし、上陸した時には、糧食も残りわずかになっていて、二人は疲労と不安のため、足もためらいがちであった。