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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

と、銀色をした腹の光が、パッとひらめいて、それが八方へ突き広がっていくのだった。

そのうねりの影は、真っ白な空を映して無数に重なり合う、刃のように見えた。

しかし、そうして一端は、遠い大きな、魚のように思えたけれど、ほどなく、渚近くに浮き上がったものがあった。

その瞬間横蔵は、眩み真転わんばかりの激動をうけた。平衡を失って、不覚にも彼は、片足を浅瀬の中に突き入れてしまった。

いまや帆を焼き尽くし、火縄を失って、軍船は速力さえも減じつつあるのではないか。まさに、追撃を試みる絶好の機会にもかかわらず、なにゆえに横蔵からは、好戦の血が失われてしまったのであろう?

彼は、眼前の、この世ならぬ妖しさに蠱惑され、自分の幻影を壊すまいとして、そのまましばらくは、じっと姿勢を変えなかったのである。

それは、眼底の神経が、露出したかと思われるばかりの、鋭い凝視だった。

頭上の、蒼白い太陽から降り注ぐ、清冽な夜気の中で、渚の腐れ藻の間から、一人の女が身をもたげてきた。そして、体を動かすごとに、藻の片々が摺り落ちて、間もなく彼女が、裸体であることがわかった。

こんな遅い時刻でさえも、中天にただ一つ、つけっ放しになっている蒼いランプは、すんなりした女の姿を、妖精のように見せていた。