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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
「明日」1948(昭和23)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页
彼女との結婚を空想していたのだ。彼女と結婚して、そして私は、あの酒場を盛大に繁昌さしてやろうと考えた。そうなれば、母の生活も安泰だし、妹の嫁入りも気易く出来よう。小樽の伯父とも連絡して、海産物加工品の取引きも初めよう。
私は年内に、弓子の決定的な言葉を得たいと思った。更に空想の中では、彼女から結婚の話が出るだろうと胸をとどろかしていた。そして私は彼女に夢中になっていった。
そこへ突然、あの情景が展開されたのだ。彼女にとっては、苦悩の爆発みたいなものだった。私にとっては、雷撃にも似ていた。――私は今、それを語ることは、苦痛を超えた喜びでさえある。
商売のことで、ちょっと飲み、酔ってくると、弓子に逢いたくなった。少し遅かったが、行ってみた。
店は真暗だが、奥の室に光りがあった。私は声をかけて、煙草を吸いはじめた。ずいぶん暫くして、ぱっと電灯がつき、弓子が出てきた。今日は休みで、戸締りをしておいた筈だが、と言う。私は帰りかけた。
「飲みたいんでしょう。おあがんなさい。今日は休みだから、わたしがおごるわ。」
最初来た時から二度目に、私は彼女の室に通った。
食卓にウイスキーの瓶やピーナツが出ていた。