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むらさきしきぶ
紫式部
長谷川 時雨
――忙しき目覚めに
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,199 字 · 7 页
浜子は源氏物語愛好者、娘時代から去年果てるまで、繰返し愛読していた。それも、ただ読流すのではなく、研究的に読んでいた。
けれど、わたしは、いつも忙しく暮しているので、年更けてから、用のほかはゆっくり話あった日がすくないので、どんな風に、あの物語につき、紫女について考えているかを聞洩してしまった。
初元結をもって来てくれた時分のこと、あたくしは彼女のことを、いかにも明石の上に似ているといったことを、書いたこともある。
それは、朱絃舎浜子の爪音が、ちょっと、今の世に、類のない筝の妙音であること、それは、古から今にいたるまでも、数少ないものであろうと思っていたし、性格やその他、明石の上にたぐえる人だったので、白粉ぎらいな彼女のことを、この明石の上はお色が少々黒いといったらば、上も浜育ちでしたろうと彼女は笑った。
明石の上も明石の浜育ち、自分も横浜の浜育ちという諧謔であったのだ。
彼女は、あたくしが、まだ唐人髷に結っていた十幾歳かの、乏しいお小遣いで、親に内密で買った湖月抄の第二巻門石の巻の一綴りに、何やかや、竹柏園先生のお講義も書き入れてあるのを、自分の参考にもっていったまま、ずっと手許においてあったが、これも、震災で焼けてしまった。