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えほんのはる
絵本の春
泉 鏡花
「文藝春秋 第四年第一號」1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,447 字 · 13 页
蝮が多くて、水に浸った軒々では、その害を被ったものが少くない。
高台の職人の屈竟なのが、二人ずれ、翌日、水の引際を、炎天の下に、大川添を見物して、流の末一里有余、海へ出て、暑さに泳いだ豪傑がある。
荒海の磯端で、肩を合わせて一息した時、息苦しいほど蒸暑いのに、颯と風の通る音がして、思わず脊筋も悚然とした。……振返ると、白浜一面、早や乾いた蒸気の裡に、透なく打った細い杭と見るばかり、幾百条とも知れない、おなじような蛇が、おなじような状して、おなじように、揃って一尺ほどずつ、砂の中から鎌首を擡げて、一斉に空を仰いだのであった。その畝る時、歯か、鱗か、コツ、コツ、コツ、カタカタカタと鳴って響いた。――洪水に巻かれて落ちつつ、はじめて柔い地を知って、砂を穿って活きたのであろう。
きゃッ、と云うと、島が真中から裂けたように、二人の身体は、浜へも返さず、浪打際をただ礫のように左右へ飛んで、裸身で逃げた。
大正十五(一九二六)年一月