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えほんのはる
絵本の春
泉 鏡花
「文藝春秋 第四年第一號」1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,447 字 · 13 页
の褄端折で、啣楊枝をした酔払まじりの、浮かれ浮かれた人数が、前後に揃って、この小路をぞろぞろ通るように思われる……まだその上に、小橋を渡る跫音が、左右の土塀へ、そこを蹈むように、とろとろと響いて、しかもそれが手に取るように聞こえるのである。
――このお話をすると、いまでも私は、まざまざとその景色が目に浮ぶ。――
ところで、いま言った古小路は、私の家から十町余りも離れていて、縁で視めても、二階から伸上っても、それに……地方の事だから、板葺屋根へ上ってしても、実は建連った賑な町家に隔てられて、その方角には、橋はもとよりの事、川の流も見えないし、小路などは、たとい見えても、松杉の立木一本にもかくれてしまう。……第一見えそうな位置でもないのに――いま言った黄昏になる頃は、いつも、窓にも縁にも一杯の、川向うの山ばかりか、我が家の町も、門も、欄干も、襖も、居る畳も、ああああ我が影も、朦朧と見えなくなって、国中、町中にただ一条、その桃の古小路ばかりが、漫々として波の静な蒼海に、船脚を曳いたように見える。見えつつ、面白そうな花見がえりが、ぞろぞろ橋を渡る跫音が、約束通り、とととと、どど、ごろごろと、且つ乱れてそこへ響く。