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ぜっけいばんこくはくらんかい

絶景万国博覧会

小栗 虫太郎

「ぷろふいる」ぷろふいる社、1935(昭和10)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,752 字 · 31 页

青空文庫

「所が杉江さん、それが私には未だもって合点が往かないのだがね。実は、そのずっと後になってからだが、ゆかりと云う雲衣さん付きの禿が、斯う云う事を云い出したのだよ。その時、釘抜部屋と背中合わせになっている中二階で、その禿は、稽古本を見ていたのだが、どうも小式部さんとしか思われない声で――可遊さん、そんな早く回しちゃ、眼が回ってならないよ。止めて、止めて――と切なそうに頼む声を聴いたと云うのだがねえ。そうすると、当然可遊の方から挑みかけた無理心中と云う事になってしまうけれども、そうなるとまた、今度は身体が竦み上がるような思いがして来ると云うのは、その矢車の事なのさ。現実その時は、ゆかりの耳にさえも、最初からゴトンゴトンと云う間伸びのした調子が続いていて、緩やかな轆轤の音は変わらなかったと云うのだからね。とにかく、それ以来六十年の間と云うものは、例えばそれが合意の心中であったにしてもだよ、あの時小式部さんの取り済ましたような顔色と、その矢車の響との二つが、何時までも私の頭から離れなくなってしまったのさ」

そのように、可遊小式部の心中話が、その年の宵節句を全く湿やかなものにしてしまい、わけても光子は、それから杉江の胸にかたく寄り添って階段を下りて行ったのだった。