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ぜつえんたい
絶縁体
豊島 与志雄
「世界」1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页
そりゃあ、あなたの無信仰は、あなたなりの主義がおありのことでしょうし、わたくしから異議は申しません。然し、弘子さんの亡骸にお別れする機会ぐらいは、わたくし共にも与えて下さるのが、当然のことではありますまいか。」
土居さんは言い終えて、杯をあおった。先程から断片的に抗議したことを、私にも聞かせるため、一纒めに要約したらしかった。
市木さんは顔色ひとつ動かさなかった。煙草をふかしながら、杯を取り上げたりしていたが、ぽつりと言った。
「弘子の死体にせよ、火葬後の遺骨にせよ、それは弘子とは別物ですからな。」
土居さんは呆気にとられたようだった。それから急に、頬を紅潮さした。
「それでは、あなたは、弘子さんとその亡骸や遺骨は別物だと、本気で仰言るんですね。ひとは死んでしまえば、その死体は当人とは別物だと仰言るんですね。よく分りました。そういうお考えでしたら、不吉なことを申すようですが、あなたが万一お亡くなりになった際にも、あなたとあなたの亡骸とは別物だと、そういう取扱いをしても、一向差支えありませんね。」
「それは結構です。わたしに無関係なことですからな。」
まるで歯が立たない感じだった。