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せんろ

線路

夢野 久作

「探偵趣味」1927(昭和2)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,832 字 · 4 页

青空文庫

あらゆる人類生活の条件と因縁とを離れて、自分自身の運命を絶対の自由さに支配し得る唯一無上の快い刹那は、今しも眼前数秒の裡に迫っている。この快い刹那を捕えるのは、私が持っている最後の権利である。

太陽は白い。空は青い。林は黄色い。

皆申し合わせたように静まり返って、上下左右から私を凝視している。

この緊張した刹那をふりすてて逃げることは不可能である……と思ううちに……山のような鉄塊が私の頭の上に迫った。

鉄塊が真白い息を吹き上げた。吼えた。怒号した。大音響が落葉林と、太陽と、青空とをかき消した……。

……次の瞬間に、私は線路の外の枯れ草の中に突立っていた。

列車は轟々と過ぎ去った。最初から私を問題にしていないかのように……。

私は列車のうしろ姿をふり返った。ジッと唇を噛んだ。眩しい白昼の光の中で受けた、強い大きな屈辱と、それに対する深い悔恨……。

「思い切って衝突すればよかった。そうして死ねばよかった」

と思いつつ……。

私はうなだれて歩き出した。そして又ハッと立ち止まった。

……眼の前の線路に、私の死骸が横たわっている。

両手をポケットに突込んだまま……紺の背広、鼠色のオーバー、黒の襟巻き……茶の中折れが飛んで……赤靴が片っ方脱けおちてて……顔半分を真赤に濡らして……それを凝視した儘、私は棒のように突立っ