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ぬいこ

縫子

宮本 百合子

「新潮」1926(大正15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,962 字 · 20 页

青空文庫

力が萎えて体がしゃんと立たない。大儀に寝がえりを打つ時など涙が眼尻から冷たく流れ落ちた。

朝、六時半に登美が目を醒した。彼女は、

「姉さん」

と、隣りに並んで眠っている縫子を起した。

「もう時間だわよ」

縫子はひどく充血した眼を開いて陰気に寝たまま、着換えしている妹を眺めていた。

「火起してるから早く起きて頂戴」

登美は私立女学校の三年生であった。彼女が火を起し、お釜までかけたのに姉はまだ起きてこない。その部屋に学用品をのせた机もあるし、登美は、

「どうしたのよう姉さん」

とふくれ声を出して催促しながら障子をあけた。また枕についたまま縫子は憤ってでもいるように妹を凝っと見、やがてあっち向になるなり夜具を引きかぶってしまった。

「――――」

ちょっと呆気にとられた登美は、合点が行くと、

「仕様がないわね」

と大人らしく呟いた。

「姉さん、起きないの? 起きないんなら母さんに起きて貰わなくちゃ駄目じゃないの」

姉がうんともすんとも云わないのを見て、登美は隣室へ襖越しに叫んだ。

「母さん、起きて頂戴な。姉さん起きないんですって今朝は――」

「おやおやそれは大変だ。――もう御飯かけましたか」