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わなにかかったひと
罠に掛った人
甲賀 三郎
「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页
「少しでも望みのありそうな所は、残らず訪ねて見ました。然し、あなたが初め仰有ったように、全部駄目でした。私は悄然として家に帰りました。あなたはどこにお出になったのか、お留守でした。私は袂の中にあった一かけの蝋燭を出して、火をつけ、じっとあなたの帰られるのを待っていました。何と云う佗しい気持だったでしょう。私達は明日はこの物置のような家さえ、出なければならないのです。一銭の貯えもなく、一銭の金を得る途さえ与えられないのです。私はじっと考えました。いろいろの事が考え浮びました。もう涙も出ませんでした。
結局、私達は生きて行けないのです。私は決心しました。私と云う足手纏がなければ、男ですもの、あなたはきっと何か生きる道を、見出されるに違いないのです。私は決心しました。私はあなたから離れます。
あなたから離れると云っても、私はあなたなしに生きて行けない事は能く知っています。ですから私は死にます。私はあの憎い玉島を殺して死のうと思います。玉島は用心深いそうですが、女ですから油断しましょう。私は金を返えしに来たような風をして彼に会い、隙を見て刺殺します。
長い間愛して頂いた事を深く感謝します。