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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

稀には憐れな私の事を思い出して下さい。どうぞ、生甲斐のある人生をお送りになりますように。

伸子」

友木は皆まで読まずに夢中になって外へ飛び出した。足は驀地に玉島の家へ向っていた。

妻は彼と同じ事を考えたのだ。手紙の文句さえが、彼が妻に書き残そうと考えていた事と、同じではないか。彼女は彼と入れ違いに玉島の家に向ったのだ。

もう間に合わないかも知れない。彼女は玉島を殺して終ったかも知れない。恐ろしい事だ!

だが、彼女だって、そう易々と玉島の家の中には這入れないだろう。殊に女の事だ。玉島に組み伏せられたかも知れない。どうかそうあって呉れ!

早まるな、伸子。もう玉島なんかどうでも好いのだ。殺す必要があったら、お前より先に俺がやっつけているのだ。ああ、俺が逃したばかりに、お前は殺人の罪を犯したかも知れない。ああ、恐ろしい、どうぞ、未だ殺していませぬように。間に合いますように。

友木は譫言のように口の中でブツブツ呟きながら、ひた走りに走っていた。

四

ああ、駄目だ!

玉島の家の二階から燈火が射していた。潜り戸に隙があって、押すと訳なく開いた。

ああ、伸子は中に這入ったのだ。