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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

友木は潜り戸を押し開けて、中庭を走りながら、もしやその辺に血に染んだ短刀を持った伸子が気絶でもしてはいないかと、眼を忙しく動かした。が、何も眼には留らなかった。

玄関にも血の垂れたような痕はなかった。

未だ惨劇は起らなかったのか。伸子は無事か。玉島に組み留められたのか。ああ、それでも好い。どうか無事でいて呉れ。

友木は勝手を知った家なので、階段を駆け上って、玉島の応接室になっている部屋を目がけて突進した。

と、突如として、人の争う物音が響いた。

友木は鞠のように部屋の中に飛び込んだ。

見ると、伸子がどこで手に入れたのか、ギラギラ光る短刀を閃めかして、勢い鋭く玉島に詰め寄せている。玉島は壁側に押しつけられて、両手を前に差し出しながら、訳の分らない叫声を挙げているのだった。

「伸子、止せっ!」

友木は怒鳴った。しかし、伸子の耳には這入らないのか、只一刺にと、足を一歩踏み出した。玉島はぎゃっと云う鳥の絞められるような声を出した。

友木は伸子に飛ついた。右の手で、しっかり彼女の短刀を持った手を握った。

伸子は激しく身を藻掻きながら振り返った。友木の顔を見ると、