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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

そこには思いがけない幸運が待っていた。新聞には玉島を殺した犯人が早くも捕縛された事を報じていた。

「まあ、好かった」

伸子は胸を撫で下しながら嬉しそうに云った。

然し、友木は未だ十分に解放されていなかった。

新聞の報ずる所によると、玉島を殺した男は武山清吉と云って、或る小さな酒屋の若い雇人だった。彼は前夜主人の命令で、得意先に掛取りに行って、五百円余りの紙幣を風呂敷包にして懐中に入れ家へ持って帰る途中で落して終った。彼は気がついてから夢中になって探し廻ったが、誰かに拾われて終ったと見えて、どこにも見当らなかった。

彼の主家は引続く不景気に破産しかかっていたので、その金がなければ愈々破滅の他はなかった。清吉はよくその事情を知っていたので、自殺して詫びるより他はないと思って、茫然しながら歩き廻っていた。そのうちにふと気がつくと、彼は一軒の大きな家の前に立っていた。それは彼の主家の附近で、評判の悪い玉島と云う高利貸の家である事が分った。彼は夢中で歩き廻っていたが、矢張り落した金の事を考えていたと見えて、掛取り先から主家へ帰る途順を歩いていたのだった。

ここの家なら五百や千の金はいつでも転っているだろう。