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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

彼は玉島の標札を見上げながら、ふと、こんな事を考えた。そうして、何心なく潜戸を見ると、どうしたのか細目に開いていた。彼は眼に見えない何物かに引摺られるように、潜戸を押した。潜戸は訳なく開いた。彼はフラフラと中に這入った。玄関もどうした事か開け放しになっていた。彼は二階から洩れて来る燈火を頼りに、階段を上った。彼はフラフラと燈火のついている部屋に這入った。すると、玉島が起きていて、彼を怒鳴りつけた。彼は夢中でそこに落ちていた短刀を拾い上げた。そうして、玉島を刺し殺した。

机の上に紙幣があるのが眼についた。彼はそれを懐中に捻じ込んだ。彼は金庫に眼をつけて開けようとしたが、それは駄目だった。そのうちに恐ろしくなって、家を飛び出し、当もなくうろついているうちに、巡回の警官に怪まれて、最寄の警察署の留置場に入れられていたのが、今日昼頃初めて玉島を殺した事を自白したのだった。

「まあ、気の毒な人ね」

読み終った伸子は、顔を蒼くして溜息をつきながら云った。彼女は然し未だ夫の嘘には気づいていないらしかった。

友木は死人のように蒼ざめた顔を上げて、一つ所を見詰めながら、吃り吃り云った。