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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

金を拾うより他に方法はないと思った事は再々あった。金を拾えばどんなに嬉しかろうと思った事も度々あった。奇蹟的に金を拾って窮境を脱する事の出来る事を幾度か熱望した。が、空想は遂に空想に終って、そんを奇蹟はかつて実現した事がなかった。

然し、今日と云う今日こそ、正にその奇蹟が起ったのではあるまいか。こう思いながら、そうして一種異様な不安に襲われながら、友木は風呂敷包を開いた。中から紙包が現われた。そうして、

何たる奇蹟!

紙包の中味は正に紙幣束だった。

友木の手はブルブル顫えた。彼はあわてて紙幣束を懐中に捻じ込んだ。持ちつけない額なので、能く目算は出来なかったが少くとも五百円はあるらしかった。

友木は夢中で走り出した。兎に角、その場にいる事が恐ろしかったので。

数町離れた所へ来て、彼はホッと息をついた。

どうしよう。

届けようか。落主が知れれば一割位貰えるかも知れない。が、落主が直ぐ知れないと、そのままお預けだ。では、いっそ初めから、謝礼だけ引いて届けようか。いや、それは分った時に困る。いっそ、そんなら皆借りて終おうか。

五百円あればもう死ななくて好い。